猿手の探索 レポート1 原猿~真猿の場合

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
青山朋樹

解剖学の教科書には「猿手」という言葉が載っています。これは指を動かす3本の神経のうち、正中神経という神経が麻痺してしまったときに、母指球と呼ばれる親指の付け根の手の膨らみが萎縮してしまい、物を「摘まみ」にくくなってしまう手のことを指します。

ヒトの手の機能の特徴は、指を曲げて行う「握り」に加えて、親指の先と他の指の先をあわせる「摘まみ」であると言われております。「猿手」というのはヒトにはできる「摘まみ」が、サルではできないことからそのような呼び方をするということのようです。

サルにもさまざまな種類があり、最も原始的な原猿、いかにもサルらしい真猿、それから少しヒトに近い類人猿があります。原猿はアイアイやキツネザル、メガネザル、真猿にはマントヒヒやニホンザル、類人猿にはテナガザル、チンパンジー、ゴリラが属します。これらのサルの手の形とその機能、そして本当に「摘まみ」が不可能なのかについて確かめるために、京都市動物園に行ってみました(ステマではありません)。

さっそくしっかり手を見せてサービス満点にお出迎えしてくれたのは原猿の代表格のキツネザルです(図1-1-1)。手を広げて日向ぼっこをする習性があるらしく、しばらくの間、手を大きく広げて見せてくれました。掌を見ていると母指球もふっくらしており、反対側の小指の付け根のふくらみ(小指球)もしっかりとしております。これなら摘まみ動作も可能かもしれないと思い、しばらく観察してみました。遠くてしっかり確認できませんでしたが、エサを食べる時は「摘まみ」というより「握り」で食べ物を持っているようです(図1-1-2)。それにしても目つきが悪い。目つきの悪さばかりが気になって「摘まみ」ができるかは確認できませんでした(図1-1-3)。

図1-1-1 出迎えてくれたキツネザルの手
1-1-2 食べるキツネザル
1-1-3 キツネザル

キツネザルより真猿に近いオマキザルの指はもう少し長く、指紋や手相のようなものも確認でき、よりヒトに近くなっているように見えます(図1-2-1)。しかし母指球や小指球はあまり発達しておらず、これは「摘まみ」をする事は難しいかな、と思いました。しばらく観察を続けましたが「摘まみ」動作ができるか否かは確認できませんでした。でも両手いっぱいにエサを持っている様は可愛らしく、掌を上に向ける「回外」という動作は可能な事が確認できました(図1-2-2)。

1-2-1 オマキザルの手
1-2-2 エサを食べるオマキザル

本日のレポート結果

原猿のキツネザルの母指球は発達しており、「摘まみ」動作は可能である可能性がある。やや真猿に近いオマキザルは回外動作は可能であるが、母指球は発達しておらず「摘まみ」動作が困難である可能性が高い。